フィレンツェと言えば、名物は「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」という大きな牛のステーキです。
でも、私は若い頃にオージービーフをたらふく食べ過ぎたせいか、歳とともにお肉があまり食べられなくなってしまい、日本サイズのステーキ一枚でかなり苦しみます。ましてや、前菜やスープが先に出てくるコース料理のステーキともなれば、どんなに小さくてもお手上げの今日この頃。
なので、「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」は、ひとり旅のひとり飯で容易に手を出せる代物ではありませんでした。
でも、そう思っていたのは、私だけだったようです。
私は頭が固かったのです。
発想が乏しかったのです。
英語ではよくThink outside the box(型にはまらない発想をせよ)と言いますが、私にはこれがまさに欠けていた!!!と思わされる出来事が、あの日、起こりました。
時を戻そう。
2018年10月11日木曜日のランチの時でした。
あの日は、午前中にウフィツィ美術館を訪れた後、そのすぐ目と鼻の先にある
Antico Fattore(アンティコファットーレ)というトラットリアでひとり飯をしました。
お肉はオーダーしませんでしたが、メニューにはちゃんとあのビッグなお肉「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」の文字が!
お値段もビッグで、確か一つが€40以上だったように思います。
もちろんスルーして、私はポルチーニ茸のタリアッテッレとほうれん草をオーダー。これにパンと水で€25(約3000円)。トラットリアなのに高いわ!
パスタは見かけも味も美味しかったです。
ただ・・・一緒に頼んだほうれん草がてんこ盛り(汗)。
いやいや〜これはほうれん草が多すぎじゃないですか?
私一人ですよ〜!こんなに一人で葉っぱばかり食べられるかーい!虫か!
しかも茹ですぎ!もっとシャキシャキせんかーい!と突っ込みたくなったのでした。パスタは絶品なのに。
でも、頑張って完食しました。
こうして、私がてんこ盛りのほうれん草と格闘する最中に、事件は起きました。
私が食べていた店内はこんな感じ。お昼のピークを過ぎて、人が減っています。私はこの写真を自分が座っていた席から撮りました。一番手前の左下のパンがあるところが私の座っていたテーブル。
良い雰囲気のお店です。
この時はまだ食事前で、ウフィツィ美術館やっぱ良かったな〜などと、スマホの写真を見返しながらぼーっと店内を眺めていました。
私の眼の前の女性3人(写真には写っていないが、左にもう一人いる)はアクセントからして中華系の方のよう(おそらく香港の方)。右前方には(後で近くで聴いた女性の英語のアクセントから)英国人らしき年配のご夫婦がワインでお食事中。
しばらくすると、中華系女性3人のテーブルに「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」らしき巨大な肉の塊が到着。私は女性3人での完食はかなり厳しいのではないかと睨んだのですが、和気あいあいと楽しそうにおしゃべりしながら食べていました。
それは正直、ちょっと羨ましい光景でもありました。私は1人寂しく食事中。一方、彼女たちは3人で、しかもフィレンツェ名物をほうばって、なんだか楽しそう。
すると・・・
!!!
右側の英国人らしき年配夫婦の女性の方が、こちらに向かって歩いてくるではありませんか。但し、向かってきたのは、私ではなく中華系3人組のほう。よく見るとその手には、お皿が!
そして、その女性、なんと眼の前で中華3人組に話しかけたのです!眼の前で繰り広げられた会話は、だいたいこんな感じ。
(会話 in English)
女性 「すみません。ちょっといいかしら。」
3人の一人「ええ、なにかしら?」
女性 「そのお肉がどうしても気になっちゃって。ちょっとばかり味見させていただけないかしら?」
3人の一人「あーら、もちろんいいわよ。どうせ3人じゃ食べきれないのよ〜。」
女性 「そうだと思ったのよ〜。とても感謝するわ。」
そう言って、その女性は3人のお肉をちょっとどころか、まあまあな塊でお皿に乗せて自分の席まで戻り、優雅に夫と共に味わったのでした。。。
そうか・・・その手があったか!!なんと思考回路が柔軟な!
She was thinking outside the box!
じゃ、私も!
「いや〜実は私もちょっと味見できないかしら〜?日本からはるばるやってきて、このステーキ食べずに帰るなんてちょっと・・・。」
と、このおばちゃんたちに加わって一切れいただき、
「ん〜Buona!(おいし〜い)」
と行きたいところでしたが、
以上は想像。
いやいや、私のようなポンコツにはできませんでした。
・・・完敗・・・
私もフレンドリーなほうだけど、これはさすがに勇気が要る・・。
この英国人らしきおばちゃんには、大阪のおばちゃんも顔負けでしょう。
お店に入った時の雰囲気からして、この両グループに面識があったとは思えず、しかも、英国女性は最初からお皿を持って出陣していたので、そこで断られたら、めちゃくちゃ恥ずかしかったでしょうに。
でも、お皿を持つことで、最初から断りにくい雰囲気を作りだした巧妙な手口とも言えるし・・・。
何れにしても、タダでお肉が味見できたことは確か!
牛だってお肉を食べ残されるよりはマシ。
恥とプライドが邪魔して私にはできない芸当を見事に成し遂げたおばちゃん。
ただただお見事なのでした。
ここで食べたポルチーニ茸のタリアッテッレを彷彿とさせる冷凍パスタを以前紹介しました(そのリンクは下)。ポルチーニ茸と舞茸は違うものの、 私はこの冷凍パスタがとても似ていると思いました。手っ取り早く試したい方はどうぞ。